「気候変動と地球温暖化に関する講演会」

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 2022年5月7日(土)、京都府総合教育センターにて、京都府立桃山高校学生および一般市民を対象とする講演会「気候変動と地球温暖化に関する講演会」(地元団体「夢追い楽しみ探そう会」および桃山高校共催)が開催され、当センターより、安成哲三センター長および一原雅子研究員が講演を行いました。
 安成センター長からは、2021年6月に公刊されたIPCC第6次報告書の内容を中心に、気候変動と地球温暖化について、自然科学的な経緯やメカニズム、今後の見通し等を説明しました。一原研究員からは、気候正義に関する説明を中心に、日々の生活に結び付けてこの問題をどのように考えられるのかという内容の講演を行いました。
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 当日参加した方々からいただいた質問について、多く寄せられたものを中心に、 Q&Aのかたちでまとめました。
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1. 昔の気温はどうやって調べているのですか?

 いろいろな方法があります。まず、木の年輪を調べる方法があります。木の生長度合いは気温により変化するので、木の年輪の幅は気温によって変わります。そのため、年輪の幅から過去の気温を知ることができます。年代が分かっている木を使えば、過去数千年程度まで気温を復元することもできます。
 安定同位体比を利用した方法もあります(注を参照)。安定同位体比(例えば16Oと18Oの比)が、環境の気温に対して決まった値を取るため、安定同位体比を測定することで過去の気温を復元できます。南極やグリーンランドの氷床は、過去の降雪が積み重なって氷になっています。氷(H2O)の水素(H)や酸素(O)の安定同位体比が気温で変化することを利用して、数十万年前までの過去の気温を復元しています。また、海底には、有孔虫などの海洋プランクトンの死がいが堆積し微化石となっていて、その微化石の炭酸カルシウム(CaCO3)の酸素同位体比を測定して過去の海水温を推定する方法もあります。この場合、表層海水温と気温がほぼ同じという仮定で気温の推定にも使っています。さらに昔の過去1億年から10億年の時間スケールでの気候(気温)変動は、堆積岩に残る過去の海水準(海面の相対的な高さ)の痕跡などから推定します。当然のことながら、過去にさかのぼる程、気温推定の誤差は大きくなっていきます。
【注:安定同位体比:同位体(同位元素)とは原子番号(陽子数)が同じでも質量数(陽子と中性子の数の和)が異なる核種(元素)のことです。同位体は、安定同位体 (Stable Isotope、安定同位元素)と放射性同位体 (Radioisotope、放射性同位元素)の2種類に大別されます。時間が 経つと放射線を出して原子核(陽子と中性子が結合した複合粒子)が崩壊(放射性崩壊)するのが「放射性同位体」で、 時間が経っても原子核が崩壊しないのが「安定同位体」です。たとえば炭素(C)では、12C(原子核数が12の炭素)と13C(原子核数が13の炭素)が安定同位体であり、14Cなど他の同位体は放射性同位体です。同じ元素のふたつの安定同位体(たとえば16Oと18O)の存在割合(安定同位体比)は、その元素の存在している環境条件(水温など)を反映して、一定の比率で安定しています。安定同位体比は質量分析計という機器で測定します。
地球研の「同位体環境学がえがく世界」のウェブサイトも参照してください。

2. 将来の気温の予測はどのようにされているのですか?

 地球の気候の仕組みを可能な限り入れた数値モデルをコンピュータ上に作ります。そのモデルの中で大気中の温室効果ガス(CO2など)の将来に向けての濃度変化を仮定して、その温室効果ガスの変化に対応して、将来の気候要素がどう変化するかを数値シミュレーションで予測します。地球の気候は、大気だけで決まっているのではなく、海洋の状態も密接に関係しています。しかも大気と海洋は、熱や水、物質の交換などを通して、相互に影響しあっています。したがって、現在、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が対象としている地球気候の数値モデルは、このような大気と海洋の相互作用も考慮したモデルが標準になっています。したがって、大気の要素(気温、降水量、風、気圧など)だけでなく、海洋の要素(海水温、塩分濃度、海流など)も予測結果として出てきます。
 将来に向けた温室効果ガス濃度の変化(増加)は、今後、どのような人間活動を想定するかによって異なるシナリオを作っています。例えば、パリ協定などでの温室効果ガスの排出規制を各国がきっちり守って、今世紀後半には全排出量をゼロにするようなシナリオや、現在の排出量をほとんど規制せずにそのまま温室効果ガスを増加させるようなシナリオなどです。IPCCでは、予めいくつかのシナリオを決めており、それらの同じシナリオを、世界中の研究機関で開発された数十のモデルにインプットしてシミュレートした結果を平均することにより、予測の精度をできるだけ高めています。
 「もし今から全くCO2を出さない生活をしたら、何年くらいで効果が出てくるのか」という質問もありましたが、これは全世界ですぐにCO2(温室効果ガス)排出量をゼロにしたら、という質問でしょうか。たとえば、上記のIPCCのシナリオのうち、最も厳しい規制をしたケースであるSSP1-1.9のシナリオによる予測では、2050年頃に排出量をゼロにした場合でも、気温上昇が止まる(安定化する)のに数十年以上はかかるという予測結果になっています。これは、海洋がすでに地球温暖化の影響をかなり受けており、その海洋がその時の大気CO2濃度になじむ(平衡となる)のに、時間がかかるということを示しています。したがって、SSP1-1.9のシナリオよりもさらに厳しい規制をしたケースといえる、排出量を突然ゼロにした場合でも、全球平均気温が安定する時間のオーダーとしては、やはり数十年程度はかかるでしょう。

3. 将来また「氷河期」のような寒い時代はくるのでしょうか?

 大変良い質問ですが、答えるのも大変難しい質問です。過去約100万年間には、10万年程度の周期で、現在よりも平均で10℃程度地球全体の気温が低かった「氷河期」と、現在とほぼ同程度か若干気温が高かった「間氷期」が繰り返されていたことが分かっています。約1万年前から現在に至る完新世とよばれる期間は、その前の氷河期の後の間氷期に当たります。10万年周期の氷河期―間氷期のサイクルは、地球が太陽の周りを公転する時の軌道要素(楕円軌道のかたち、地軸の傾き、地軸の歳差運動)がゆっくりと変化していることによって、地球表面の日射量の緯度分布と季節変化が2万年から10万年の周期で変化する(ミランコビッチ・サイクルとよばれる)しくみが関係していることが分かっています。したがって、今後も「氷河期」が数万年以降頃に再来する可能性はあります。
 しかし、氷河期―間氷期の周期的な変化には、日射量の変化だけでなく、氷床の拡大縮小、海洋温度と深層水循環、そして大気中の温室効果ガス濃度の間の相互作用が非常に重要な役割をしていることもわかってきています。したがって、人間活動による地球温暖化が大きくなりすぎて、たとえば氷床がなくなったりすると、この日射量変化(ミランコビッチ・サイクル)が効かなくなってしまうという研究もあります。もし、その研究の指摘が正しければ、もう「氷河期」は再来せず、地球気候は、暖かくなる一方になります。ただし、地球気候の自然変動のしくみには、まだ未解明の部分が多く、さらなる研究が必要です。「気候変動」とは、人間活動による「地球温暖化」だけが問題なのではなく、地球の気候システムが元々もっている自然の気候変動のしくみと、そのしくみに人間活動がどのように影響を与えるのかという問題の解明が不可欠なのです。

4. 地球の気温上昇を抑えるために、エアロゾルを大気圏に投入するという方法も考案されているそうですが、これはどのようなものですか。

 19世紀頃からの人間の産業活動は、CO2などの温室効果ガス以外に、大気中に、工場の煙や自動車の排気ガスなどから大気汚染を引き起こす微粒子状の物質を大量に出してきました。これらの大気中に浮遊する微粒子状の物質(その多くは0.1㎜以下)は、エアロゾルとよばれています。大気汚染のひどい(すなわち、エアロゾル量の多い)大気は、透明度が低く、霧や霞がかかった状態となるので、温室効果ガスとは反対に、日射を直接反射したり、雲の元(雲核)になり雲の量を増やして、やはり雲による日射の反射を増やしたりします。したがって、エアロゾルは温室効果とは反対に、地表に届く太陽光の量を減らす(「日傘効果」といわれる)効果を持つのです。
 自然現象の中でも、火山の大爆発が起こって、上空の成層圏(10数キロ以上の大気圏)に火山噴火によるエアロゾルが大量に注入された後2~3年間、地球の気温が全体的に低下することがあります。ただ、どの程度気温が低下するかは、火山噴火の規模によって、大きく変わります。噴火が大きく成層圏にまで大量の噴煙(エアロゾル)を注入するかで、その気候影響が大きく変わるからです。噴火が成層圏まで達しなかった場合は、全球的な気候影響はほとんどない。温室効果による地球温暖化を抑制するために、人工的にエアロゾルを成層圏に大量に注入して「日傘効果」を強化すれば、温暖化を抑制できるはず、という考えにもとづく地球温暖化抑制の方法も議論されています。

5. エアロゾルを成層圏に投入したら、確かに気温の上昇は抑えられるかもしれませんが他の影響は予測されているのでしょうか。

 まさにそこが問題ですね。そもそも大気汚染物質にあたるものを大気に投入するので、たとえ成層圏に注入しても、しだいに下層の大気圏(対流圏)に落ちてきて、雲への影響や、場合によっては直接、人間の健康への影響が出てくる可能性もあります。しかも、注入したエアロゾルの効果は、エアロゾルがしだいに落下したり雨に融けたりしてゆっくり地上に落ちて無くなるため、期間的にも限定的です。また、どの程度の量のエアロゾルを成層圏に注入したら、どの程度「日傘効果」が現われるか、などの定量的な見積もりもまだまだわかっていません。エアロゾルをどこからどの程度大気に投入したら、どのような気候への影響が出るのか、よくわかっていないことが最大の問題です。そもそも地球全体でまんべんなく冷えるかどうかもわかりません。ある地域は気温が低下しても、大気循環の反応しだいでは、ある地域では気温が上がるかもしれません。
 このような、地球の気候システムに人間の手を入れて、気候を変えようという方法は、地球工学とか気候工学とよばれ、欧米の科学者の一部で議論されていますが、複雑な気候システムに人間の手を入れた時にどのように気候が応答(反応)するかは、非常に難しい問題です。それに加え、私たち自身がそこで頼って生きている地球の大気そのものを実験室として使うことも、倫理的に許されることなのか。よく考えるべきことではないでしょうか。もし実験した結果が、想定外のとんでもない結果になった場合、人類全体が深刻な影響を受けてしまうからです。

6. 地球温暖化が進むと、世界では湿潤なところはもっと雨が降るようになって、乾いたところではもっと雨が減ると予測されています。どうして地球温暖化が進むと、気候がより極端になる傾向が強まると予測されているのですか。

 とても良い質問です。この問題のカギは、地球温暖化に伴って、大気中の水蒸気が増え、水循環が活発になることです。CO2などの増加により地表面が温室効果で加熱され、地表面温度が高くなります。また、地球表面の70%は海に覆われていますので、地球温暖化では海面温度が高くなります。海水温が高くなると、飽和水蒸気圧と気温との関係(注1)によって、蒸発量が増え大気中の水蒸気圧(水蒸気量)も指数関数的(急な右肩上がり)に増加します。飽和水蒸気圧とは、空気が含むことができる水蒸気がその限度に達した場合(飽和状態)の全大気圧のうち、水蒸気が占める圧力のことです。
 地球大気にはもともと、熱帯・亜熱帯を中心にしたハドレー循環という大気の循環があります。赤道付近には、地表面気温も高く、対流活動(積乱雲を中心とする雲活動)が活発な熱帯収束帯(北半球側と南半球側の南北二方向からの風がぶつかり、上空へと流れている赤道付近の地域)があり、その収束帯では上昇気流が維持されています。対流圏上部にまで達した上昇気流は高緯度側に向かい、緯度30度付近にある亜熱帯高気圧帯で下降します。これが、ハドレー循環です。温室効果による蒸発量の増加は、熱帯収束帯での対流活動をますます活発にして、ハドレー循環が強化され、亜熱帯高気圧帯での下降流も強化される結果、もともと雨が降らない亜熱帯高気圧帯ではますます乾燥して雨が降らなくなります。一方、地球上最大の大陸であるユーラシア大陸の低緯度側では、チベット高原の効果もあり、湿潤多雨のアジアモンスーン地域が広がっていますが、温暖化で水蒸気量が増えると、アジアモンスーン地域の対流活動はますます活発になります。チベット高原の西に広がる中近東から地中海域にいたる乾燥地域は、アジアモンスーンと対(ペア)になるかたちで形成されているため、この東西の大気循環も強化され、乾燥地域はますます乾燥する傾向になります。
 ちなみに、地球温暖化は、このような大気大循環だけでなく、大気下層の水蒸気量を増加させることで、局地的にも大気を不安定にする傾向が強まります(注2)。ある程度湿潤な気候の地域では、大気は多くの場合、「条件付き不安定」な状態(注2)にあり、地表面での強い加熱や地形の効果などで空気が持ちあげられると、積乱雲と強い上昇気流を伴う雲活動を活発化させます。積乱雲がいったん形成されると、雨が降る場所では上昇気流が強いですが、そのすぐ周りは、下降気流が強まり、晴天となりやすくなります。そのため、温暖化による大気下層の水蒸気量の増加は、全般的には、このような積乱雲系による強い雨(集中豪雨)の頻度を増加させますが、その周りには下降気流が広がって雨が降らない地域も現れやすくなります。したがって、地球温暖化により地球全体で降水量が増加するかどうかは、微妙な問題です。IPCCによる降水量の予測でも、地球全体での増加傾向はかならずしも顕著ではありませんが、短時間(1時間や1日)での強い雨は確実に増加するという予測になっています。過去100年程度の大雨(豪雨)の頻度は、日本でも、世界全体でみても、確実に増加しています。

【注1 飽和水蒸気圧と温度の関係】
大気中に水蒸気として存在できる水の量は限界があり、温度(気温)によって決まります。空気1m3が含みうる水蒸気量の最大値を飽和水蒸気量といいます。大気中の水蒸気量は水蒸気圧(hPa)を用いて表すことができます。水蒸気が飽和しているときの水蒸気圧は飽和水蒸気圧とよばれます。ある温度における飽和水蒸気圧に対する実際の水蒸気圧の割合(%)が相対湿度です。飽和水蒸気圧は下図(温度と飽和水蒸気圧の関係)に示すように、気温が高いほど急激に大きくなります。地球温暖化で気温が上昇すると、海上では、海水温が高くなります。海面に接した大気も海水温とほぼ同じになるため、飽和水蒸気圧が大きくなります。そのため、海面に接した大気では、飽和に達するまで海面からの蒸発量が増加し、海面近くの大気中の水蒸気量は非常に多くなります。その割合は、図のように、温度が高いほど右肩上がりに増えることになります。】
(図説明)気温と飽和水蒸気圧(飽和水蒸気量)の関係.温度の上昇と共に飽和水蒸気圧は指数関数的に増加する。

【注2 大気の安定と不安定、条件付き不安定】
周りとの熱のやりとりのない空気の塊は、飽和していない大気では100m上昇するごとに温度が1℃下がり、雲の中のように飽和している大気では100m上昇するごとに温度が約0.5℃の割合で下がります。この空気塊の上下運動に伴う気温の鉛直方向の変化率を、それぞれ乾燥断熱減率、湿潤断熱減率とよびます。対流圏とよばれる地上から高度約10㎞程度までの大気層は、平均的に100mにつき0.6~0.7℃の気温減率を保っています。しかし、対流圏の中・上層により冷たい空気層があり、1℃以上の減率になると、何等かの原因(例えば地表面の加熱や山の地形など)により下層から持ち上げられた空気塊は、乾燥断熱減率で気温が下がるため周囲より暖かくて軽いため、浮力を得て対流が起りやすい不安定な大気となります。反対に上層が1℃以下の減率の場合は、持ち上げられた空気の塊は周囲より気温が低く重いため、上昇できず安定で対流は起こりにくくなります。
 一方、大気層が安定でも、もし大気下層に水蒸気が増えると、その下層にある空気塊が何等かの原因で持ち上げられた時、湿った空気塊の水蒸気が凝結して雲が形成されると、湿潤断熱減率で気温が下がるため乾いた周囲の大気層より気温が高くなり、やはり大気層は不安定となり、対流が起りやすくなります。このような不安定は、上昇する空気塊が飽和に達して凝結するという条件で生じる不安定であり、「条件付き不安定」とよばれています。したがって、大気上層に冷たい空気が入ってきた場合か、下層に水蒸気が増えた場合、あるいは両方の場合に、大気層は不安定の状態となり、対流が起りやすくなり、積乱雲などが発達しやすくなります。熱帯収束帯などはほぼいつも条件付き不安定の大気層となっています。

7. このまま地球温暖化が進んでも、私たちは地球上で生存していけるのでしょうか。心配です。

 ホントに心配ですね。暑くなって暮らしにくいとか、大雨が増えて災害が増えるとかも心配ですが、一番心配なのは、私たち人類の生存に不可欠な食べ物(特に、お米や小麦などの主食)が、これまで通りに確保できるか、ということではないでしょうか。氷河期が終わり、完新世といわれる適度に温暖な気候が1万年続いてきたおかげで、お米や小麦、とうもろこしなどの主食になる作物栽培が可能になり、人口は急激に増加してきました。人類が農耕を開始した数千年前頃は、世界人口はまだ数百万人~1千万人程度であったとされていますが、現在(2020年)は76億人と言われています。これまでも気候変動により人口が大幅に減少した時期はありますが、地球温暖化による気温や降水量変動により農作物が不作になると、地域的にも地球全体としても、とても深刻なことになりますね。

8. 地球温暖化って何だか悪い影響ばかりが取り上げられているように思うけど、何かよい影響はないのでしょうか。

 そうですねぇ。よくいわれるのが、元々寒かった地域は、温暖な気候になって住みやすくなるのでは、ということです。亜寒帯や北極圏地域の面積が広いロシアなどは、温暖化はむしろプラスになるということをいう研究者もいます。しかし、よくよく考えてみたら、私たち人類は、熱帯から寒帯まで、それぞれの地域で過去数千年の完新世の気候と生態系に適応して生活圏をつくってきたわけです。現在の「地球温暖化」では、その生活圏を何らかのかたちで急激に変えてしまうような気候の変化・変動とその影響が出てくるわけですから、そもそも良くなる影響は少ないのではないでしょうか。たとえば、非常に寒いシベリアやアラスカの北極圏に住んでいるイヌイットといわれる先住民の人たちは、凍った大地に穴を掘って天然の冷蔵庫として使ってきたのですが、温暖化で凍土が融けてきたので、その天然冷蔵庫による食料貯蔵ができなくなってきて困っているという現象も起きています。熱帯太平洋地域のサンゴ礁の島々で数千年間以上、生活してきた人たちは、海面上昇で、住む場所自体がなくなってきています。

9. 水蒸気にも温室効果があると聞きましたが、本当ですか。

 はい、その通りです。現在の地球表面の平均気温は15℃前後ですが、大気に温室効果ガスがない場合は、マイナス19℃になるといわれています。この温室効果を担っているガスは水蒸気、二酸化炭素、メタンなどですが、その温室効果への寄与は、水蒸気が50%程度、CO2は20%程度とされています。ではなぜ、CO2(やメタンなど)だけが問題にされているのでしょうか。それは、これらのガスが化石燃料の使用などによる人間活動で、近年顕著に増加しているからです。水蒸気は元々大気に多く含まれており、自然の水循環の中で常に変動しています。ただ、上記6の質問のところで答えたように、CO2の増加→海水温の上昇→蒸発量の増加→大気中の水蒸気量の増加という連鎖的なプロセスで、CO2などの温室効果ガスの増加が水蒸気量の増加を引き起こしているため、気温の上昇の見積もりには、この水蒸気量増加の効果も含まれています。だから、IPCCの報告などでは、水蒸気量の増加のみを取り出して温室効果を評価することはしていませんが、温室効果ガスの主役は水蒸気量です。CO2増加は、水蒸気量を増やす蛇口をゆるめる役割を果たしているという言い方もできます。

10. 現在、世界各地でCO2排出削減の取り組みが進められているようです。安心ですね。

 いや、安心はできません。18世紀に始まった産業革命以降、人類は石油・石炭などの化石燃料にたよってエネルギーを使ってきたため、CO2の削減はそんなに簡単な問題ではありません。化石燃料によってエネルギーを作り、消費するプロセスで、現在の人類文明ができあがっているからです。CO2削減のためには、この2~3世紀に作られてきた技術をすべて見直して、例えば自然エネルギーを動力とする技術体系に変えていかないといけないのです。とりわけ、日本もふくめ、いわゆる先進国に暮らす人々は化石エネルギーに頼った生活に慣れ切っています。それを変えていくことも大変なことです。

11. この頃、電気や水素のエネルギーを使う自動車のこともよく聞きます。本当に環境にいいのでしょうか。

 ガソリンなどの石油製品の代わりに、電気や水素のエネルギーを使うことは、排気ガスにCO2を出さないという面ではいいことですが、電気や水素のエネルギーを創り出すのに、石油・石炭を大量に使っていたとしたら、何の意味もないですね。これらのエネルギーを作りだすのに、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使う必要がありますね。

12. 温暖化対策は、なかなか必要とされている水準には届いていないようですね。何が障壁になっているのでしょうか。

 質問10で答えたように、これまでの化石燃料利用を前提とした産業や技術の在り方を変えていかないといけないこと、そして、化石燃料が無限に利用できるということを前提にした生活のかたちを変えていかないといけないことを同時に解決する対策が必要だから、とても難しい問題なのです。

13. この頃「気候正義」という言葉も聞きます。どういう事柄を指しているのでしょうか。

 一般には、気候変動の原因を生じさせている人たち、あるいは国と、気候変動の影響による被害を受けている人たちや地域が一致していないことによる不公平や、不正義のことを指すことが多いように見受けられます。ここには、①地域間の不正義(エネルギーを大量に消費して温室効果ガスを大量に排出する、主に先進国の人たちよりも、ほとんど温室効果ガスを出さない途上国の人たちが、深刻な気候変動影響を受けること)と、②世代間の不正義(過去から現代の世代が排出した温室効果ガスによる気候変動の悪影響を、排出していない将来世代が強く受けること)の2つの側面があります。

14. 温暖化や気候変動で、日本の生態系はどの程度影響を受けるか

 気候変動(地球温暖化)で、様々な影響が出ると予想されています。すでに一部には影響が出ています。桜の開花時期の変化などの生物季節への影響は身近なものとして出ていますね。農業も生態系を利用しているわけですから、稲作や果物栽培など、すでに温暖化の影響が現われています。日本近海で取れる魚の種類や量などが変わってきていることも報告されていますが、少なくともその一部は、海流の変化、水温変化などの気候変動が関わっていると考えられています。
 詳しくは、例えば、環境省の報告書『生物多様性分野における 気候変動への適応』などを参照してください。地球全体の生態系への影響については、IPCC AR6/WG2報告(IPCC,2022)も参照してください。
生物多様性分野における気候変動への適応生物多様性分野における気候変動への適応
IPCC AR6/WG2報告書のSPMの概要